2024年12月22日 クリスマス礼拝「羊飼いと天使」

ルカによる福音書2章8~20節

はじめに
 このメッセージは、救い主イエス・キリストのご降誕が持つ意味を考えたものです。社会の周縁にいた羊飼いたちの姿や彼らが置かれた厳しい状況の中、現代にも通じる「暗闇」と「光」の対比を通して、クリスマスが私たちの日常にどのような希望をもたらすのかについて、ご一緒に考えます。

1. 「闇の只中で立ちすくむ」
「羊飼い」と聞くと、私たちは「アルプスの少女、ハイジ」のようなのどかなイメージを抱くかもしれません。しかし、1世紀のパレスチナ社会では、羊飼いは貧しく、宗教行事への参加もままならない上に、税金や兵役の問題で周縁に追いやられていました。とりわけユダヤ教の掟を十分に守れない彼らは「けがれた」存在とされ、社会的信用を失っていました。
 そんな彼らが暗い夜の野原で番をしていると、突然天使が現れ、周りは神の栄光の光で照らされます。ローマ帝国の支配やユダヤの宗教的圧力の中で、最下層と見なされた人々が「神さまの使い」に出会うとは想定外。そこで彼らが最初に覚えた感情は「恐れ」でした。これまで「神から遠い」と言われ続け、弱さやけがれをもつ自分たちのもとに、まさか神の光が届くとは信じられなかったのです。
 しかし、この「闇の中に差し込む光」という構図は、現代に生きる私たちにも通じます。SNSの情報過多による分断や経済格差など、私たちを取り囲む暗闇はさまざま。けれども、その暗闇のただ中でこそ、神の光は輝くのだとイザヤ書の言葉(マタイ4章16節参照)にもあります。

2. 「福音の言葉を聞く」
 天使はまず「恐れるな」と語り、「民全体に与えられる大きな喜び」を告げます。「豊かな人から貧しい者まで、あらゆる人々に平等に与えられる福音」が示されます。
「福音」とはギリシャ語で「良い知らせ」を意味します。ルカ2章11節はその核心で、「今日ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ主メシアである」という宣言がなされます。驚くべきことに、この最高の「良い知らせ」が、最も弱い立場とされていた羊飼いに真っ先に届けられました。神は社会の上下を逆転させるように、真っ先に貧しい者を選び、救いを告げるのだとルカは強調しています。
 このメッセージは、今を生きる私たちにも響きます。「あなたがたのために」という言葉は、自分と無関係に思われた神が、本当は私たち一人ひとりに近づき、「恐れるな」と語りかけていることを示します。

3. 「自ら探し求める行動へ」
 羊飼いに告げられた「救い主のしるし」は、家畜小屋の飼い葉桶でした。大きな権力や富ではなく、汚れた場所こそが神の臨在する場となります。これは「どんな暗く弱いところにも、神が降りてこられる」ことを象徴しています。
 羊飼いたちは、「さあ、ベツレヘムへ行こう」と行動を起こします。夜道を恐れず、ローマ兵や猛獣の危険を顧みずに動き出す姿は、「自分たちのための救い主がいるかもしれない」という喜びと確信によるものでした。現代社会では情報が氾濫し、受け身になりがちな私たちですが、「求めなさい。そうすれば与えられる」(マタイ7:7)という言葉に倣い、神を探し求める小さな一歩を踏み出したいものです。短い祈りや隣人への気遣いといった小さな行いが、神の光を体験するきっかけになります。

4. 「喜びと証しへと溢れ出す心」
 羊飼いたちはついに飼い葉桶の幼子と出会い、「自分たちの救い主だ」と素直に信じ、大喜びで周囲に伝えます。社会的信用がない彼らが、「光を見た者」として証し人になることは、まさに上下が逆転する出来事でした。ローマ帝国やエルサレム神殿という権力構造を越えて、神は最も弱い者たちと共におられます。
 この場面は、第一コリント1章27節「神は力ある者に恥をかかせるため、世の無力なものを選ばれた」という言葉を思い起こさせます。ペトロが「わたしたちはこの事実の証人です」(使徒5章32節)と語ったように、福音の光を受けた者は黙っていられず、自分の体験を語らずにはいられないのです。

まとめ
「羊飼いと天使」の物語は、ローマ帝国支配下の不穏な時代背景の中で展開され、誰もが期待する強い王ではなく「貧しい幼子」として来られたメシアを知らせています。社会的に最も弱い羊飼いにまず告げられた福音は、「神がどんな暗い場所にも降りてこられる」という大きな希望を示します。
 私たちも、闇の只中で不安に揺れている点では羊飼いと変わりません。けれども神は「恐れるな」と今も語りかけ、低く小さな場所に降りてこられるのです。このクリスマス、私たちがいるところにも神の光は届いています。あの羊飼いのように「恐れ」を乗り越え、たとえ小さな一歩でも踏み出してみましょう。隣人への親切や祈りという小さな行いを通じて、私たちは、神の愛が今なお世界を照らし続けていることを実感できるはずです。
 クリスマスの光が私たちの弱さや不安を包み込み、日常を照らす力であるということを、心に留めて過ごしましょう。

日本基督教団 板橋大山教会

日曜礼拝:  子どものための礼拝 9:30~  大人のための礼拝 10:30~ 173-0013 東京都板橋区氷川町47-3 電話:03-3964-4139